松鶴farm 松鶴さんご夫妻
南富良野町に移住し、4人のお子さんを育てながらミニトマトやアスパラなどを栽培する松鶴健作さんと愛さんご夫妻です。元々はスキーインストラクターとしてこの地を訪れたお二人。現在はお二人で夏は農園を切り盛りしながら、冬はスキーのガイドをなさっています。自分たちの選んだ暮らしの価値、日々の喜びを自然体で発信し続けるお二人に、田舎暮らしのリアルな魅力と「北海道ならではの働き方・子育て」についてお話を伺いました。
空き家探しから始まった移住と、「北海道型マルチワーク」
ーー先に奥様が南富良野に移住し、住むところを探すところから始めたと伺いました。
愛さん: 最初に占冠のスキー場で働き始めたのですが、住むところがまだ決まっていない状態で。落合の町を歩いて探して、空いていそうな家を見つけて、空いているのか聞くつもりで通りかかった駐在さんに聞いたら、その家の持ち主に駐在さんがつないでくれて。(笑)。
ーー結婚されて新規就農されたのですね。初期投資などのハードルは高くなかったですか?
健作さん: トラクターを何台も揃えるような大規模な畑作は資金的にも新規では難しいです。うちはビニールハウスでミニトマトなどを栽培する施設園芸で、小さな面積なので夫婦2人でもスモールスタートで始められました。


愛さん: 地方だと、いくつかの仕事を掛け持ちする「マルチワーカー」が成り立ちやすいんです。ここら辺の農家さんも、元々は冬は林業、夏は農業という働き方でした。だから、特別なことじゃなくて、地域的にも合っている働き方なんだと思います。
健作さん: 夏場は農業をして、冬場は雪があるので好きなスキーのインストラクターやガイドの仕事をしています。季節に合わせて組み立てられる「北海道型の農業」の魅力ですね。


ーーお二人はもともと農業経験がなかったとのことですが、未経験から始めることに不安はありませんでしたか?
健作さん:元々は全くの未経験でしたが、アウトドアの仕事をしながら農家さんでアルバイトをしていました。そこで実際の作業を経験して「農業って面白いな、可能性があるな」と感じて。 就農を決めてからは、富良野緑峰高校(現富良野高校)の特別専攻科に入り直しました。夏は週1〜2回授業があり、冬の農閑期に一気に座学で学ぶというスタイルでした。さらに農業大学校の短期講座にも通って、必要な知識を補足していきました。
愛さん: 私も最初は全く農業のことが分からなくて。でも、ただ言われた作業をこなすだけでは経営はうまくいかないと思い、子供が少し大きくなってから農業大学校や農水省の研修に行かせてもらったんです。 「農業女子プロジェクト」や北海道の女性農業者グループ「リンクス」などにも参加して、経営の仕組みを学びました。
健作さん: 農業の経験がない人でも学校や研修制度もありますし、先輩農家の方から色々教えていただけることもあります。資金面での町の助成もありますし、本気でやろうと思えば未経験からの新規就農は可能だと思います。
「作る」だけじゃない。マルシェやボランティアで広がる繋がり
ーー保育所の前で「お迎えマルシェ」もされているそうですね。
健作さん: 週に1回夕方のお迎えの時間に合わせて野菜を販売しています。小さい時期に近くで食べ物に触れてほしくて。ミニトマトの量を自分で量って買うゲーム的な体験もやっているんですが、子供たちの食いつきがすごく良いんです(笑)。エンドレスで量りに置こうとするのでお母さんが「もういいよ」って。


ーーそれは楽しいですね。農園では「農業ボランティア」も受け入れているとか。
健作さん: はい、学生さんや社会人の方を受け入れています。美味しい作物を作るだけでなく、田舎の暮らしや農業のシーンを発信したいという思いがあって。ボランティアに来た方が何年か後に遊びに来てくれたり、野菜を買ってくれたりと、コミュニティが広がっていくのも嬉しいです。
愛さん: うちの子供たちにとってもすごくメリットがあるんです。人が少ない地域なのでボランティアさんを受け入れることで、「外の大人」と交流できる。子供たちにとっても良い刺激になっています。


都会以上の手厚さ!?少人数だからこその子育て環境
ーー4人のお子さんの子育てについて伺います。田舎ならではの教育環境はいかがですか?
愛さん: まず、小さい年齢(0歳児)から保育所に預かってもらえます。待機児童の心配もなく、すごく助かりました。小学校は複式学級ですが、逆に小規模の方がメリットが大きいと思っています。ICTも入っていて、先生が子供一人ひとりの学習進度に合わせてカリキュラムを意識してくれる「個別最適化」された教育を受けられるんです。公立でここまで手厚く見てもらえるのは、小さい学校だからこそだと思います。
健作さん: 人数が少ないので、年齢を超えた縦の繋がりが強いのも良いところです。卒業生が帰ってきても「親戚のお兄ちゃんお姉ちゃん」みたいな感覚で。人間関係もカラッとしていて、いじめのようなネチネチしたものになりにくいです。
愛さん: 学校の授業で、田植えをして、収穫して、みんなで餅をついて食べたり。この地域ならではのストーリーのある体験になっていて良いと思っています。
不便さも自分たちで変えていく。たくましさとコミュニティ
ーー逆に、田舎暮らしの「不便さ」を感じることはありますか?
愛さん: やっぱり病院が遠いことですね。以前、私がインフルエンザで夫は仕事、そして一番下の子が入院するという絶体絶命の時があって。実家にも頼れないので、「これは病児保育や預かりの仕組みがないと困る!」と思い、町にお願いして「ファミリーサポート制度」を作ってもらったんです。
ーー自分たちで町に働きかけて作る、すごい行動力ですね!
愛さん: あとは移動の不便さですね。JRやバスが減ってしまい、子供のスキーやカーリングに行くのも親の送迎が必須です。親が送迎できる家庭しか経験できないという格差にならないようにしたいなと。でも、それも田舎暮らしのリアルとして、みんなで時間をやりくりしています。
ーー地域コミュニティとの関係性はいかがですか?
健作さん: 消防団や町内会、PTAへの参加は必須に近いですが、そこに入ると大体どの組織もメンバーが同じなんです(笑)。でも、そうやって「濃い付き合い」に入ることで、地域の方もすごく好意的に受け入れてくれますし、それが結果的に暮らしやすさやセーフティネットに繋がっています。
ーー先輩移住者の方々とのネットワークもあるそうですね。
愛さん: そうですね。アウトドアガイドで入ってきた移住者の第1世代、第2世代の方々がいろんな事業を展開していて、横の繋がりで助け合える土壌があるのは心強いです。
ーー最後に、これからの展望を教えてください。
健作さん: 農業は楽ではないし大変なこともありますが、作ったものが評価してもらえた時には僕らも喜びを感じます。ただ作物を作って出荷するだけでなく、働いている現場を見たり体験して楽しんでもらえるような「丸ごとの暮らし」を発信していきたいです。ここに来て触れて楽しんでもらえるような農園を作っていきたいですね。