KUMADEL Cafe経営 田口さん
2023年8月、金山地区にある果樹園の一角にポツンとオープンしたパイのお店。周囲には大自然が広がり、文字通り「クマが出る」ほどの山奥にもかかわらず今や多くのお客さんが訪れる人気店となっています。札幌から移住しご夫婦でこのカフェを立ち上げた元警察官の田口さんに、移住のきっかけや起業のお話、そして地域との関わり方について伺いました。
都会の疲弊から田舎暮らしへ。ゼロからのスタート
—— そもそも、なぜ南富良野へ移住を決められたのでしょうか?
田口さん: 以前は札幌で警察官として働いていました。不規則な勤務や突然の呼び出しなどで家族との時間がなかなか取れず、都会での生活に疲れていたのが正直なところです。折しもコロナ禍や震災を経験し「大都市での生活は意外と脆弱なのでは」と感じるようになりました。 元々キャンプが好きだったこともあり、テレビなどで見る「田舎暮らし」に憧れを抱いたんですが、そんな時に自分が疲れているのを見て、嫁さんが「田舎でゆっくり暮らそうか」みたいなことを言ってくれて。なんか最初のきっかけはそんな話だったと思います。
—— 移住してきたときには何をするか決まっていなかったのですか?
田口さん: 全く決まっていませんでした(笑)。ある時、ご近所の農家さんから大量のお野菜をいただいたんです。そんなこと経験がなかったので、これはなにかお返しをした方がいいということになり、うちの奥さんがアップルパイを作ったんです。そうしたら「こんなに美味しいなら、ここでお店をやってみないか」と言っていただいて。それが、すべての始まりでした。
「あんな場所で…」地元の反対を押し切った秘境への勝算




—— お店のある果樹園はかなり山の中ですが、不安はありませんでしたか?
田口さん: お店をやると決めた時、地元の農家さんたちからは「あんな場所でやっても人が来るわけない」と大反対されました。町から助成金をいただく際も、事業計画書を何度も作り直すなど厳しい目で見られました。でも、改めて考えるとそんなに悪い場所かなって思うんです。占冠の高速から富良野に行く間にあるわけなので人の通る通過ポイントだろうと。私たちはあの場所の景色に惚れ込んでいたんです。夕張岳まで続くような手つかずの自然、鹿やクマまで現れる圧倒的な非日常感。
札幌にいた頃、秘境といえるような場所にあるパン屋さんやうどん屋さんをあえて探して行くのが好きだったんですが、そういうお店の中にすごく混んでるところがあって。 だから「ここでも絶対にやりようがある。こんな良い景色の場所を他の人に取られるくらいなら自分たちでやりたい!」と妙に火がついてしまいました。
ーーとはいえ、リスクもありますよね。
田口: だからこそ、徹底的に「スモールスタート」にこだわりました。最初から立派な建物を建てるのではなく、プレハブをポンと置いて。初期投資を抑え、まずは妻が1人で回せる規模から小さく始めました。


冬の試練と、クチコミで広がる「確かな味」
—— 実際にオープンしてみて、反響はいかがでしたか?
田口さん: 夏のオープン直後は地元の方々が来てくれて忙しかったのですが、秋から冬にかけて客足はピタッと止まりました。周囲からは「冬は閉めた方がいい」と言われましたが、南富良野の冬の弱さを知っていたからこそ、「休むのではなく、あえて冬に動線を作りたい」と冬だけの限定メニューを考えたりして踏ん張りました。転機は翌年の3月です。そのだいぶ前に富良野のフリーペーパーの取材を受けたことがあったのですが、配布日も全く忘れていました。ところが、3月のそのフリーペーパーの配布日に、朝から駐車場がいっぱいになるほどの大反響だったんです。それまでは南富良野のお客様が大半だったのですが、それを境に富良野からもお客様に来ていただけるようになりました。その後、テレビ取材なども入り、一気に知っていただける方が増えたと思います。



—— リピーターも多いと伺いました。美味しさの秘訣は何でしょうか?
田口さん: うちの武器は「パイ生地」です。一度バターを海外製に変えたらすぐにお客さんに見抜かれてしまい「消費者を舐めちゃいけない」と痛感しました。国産バターのみを使用するよう徹底するなど、パイ生地にはとことんこだわっています。 また、味だけでなく同じくらい接客も大切にしています。お見送りをして「甘すぎませんでしたか?」とお客さんの意見をヒアリングして新メニューの試作につなげたり。そういう積み重ねがクチコミに繋がったのだと思います。私たちは観光客向けの店ではなく、あくまでも地元の皆さんに愛されるお店を目指しています。
地域コミュニティとの繋がり方
—— 地域の方々とはどのように関係を築いていったのでしょうか?
田口さん: 最初の1年ほどは挨拶程度で深い交流はありませんでした。そんな時に地元のお祭りに行ったのですが、来ている皆さんみんな知り合い同士という感じの中で私たち夫婦だけその中で浮いているようなアウェー感を感じたことがあったのです。その時にそんな中でもまだ挨拶をするくらいには知っている近所の農家さんに声をかけてもらい、軽い会話をしたことで少しだけアウェー感が減った感じを経験して。もっと地域の中に入る必要性を感じて、そこから徐々に青年部や消防団に入るようになりました。 最初は正直「もう警察みたいな組織はいいかな…」とい気持ちもあったのですが、地域の中にもっと深く入るためには絶対に必要だと腹をくくって参加しました。結果的に、それがきっかけで一気に地域に馴染むことができました。今では農家さんがものを運ぶとき重機を貸してくれたり、本当に助けられています。
—— 移住を検討している方へ、アドバイスをお願いします。
- 郷に入っては郷に従う: 自治会や町内会への参加は、田舎暮らしを楽しむために必須だと思います。助けられることが多いですし、知り合いが増えて楽しいことが多いですよ。
- 助成金の活用: 起業の際、町の助成金は資金面の助けになるのはもちろんですが、それだけでなく「町から信頼を得て事業を始める」という実績作りにもなりました。移住・起業を考えている方は、ぜひ役場や商工会に相談してみてください。
今後の展望
—— 最後に、これからの目標を教えてください。
田口さん: 「南富良野といえば最初に思いつくアップルパイの店」と思ってもらえるような、町を代表するお店に成長させたいです。現在は店舗の拡張なども計画しています。これからもあの場所の特別感を大切にしながら、わざわざ足を運んでくださるお客様を大事にしていきたいです。